北野邦生戯曲集「脱走」他12篇より(追憶:一幕)・・・一部公開

北野邦生作:戯曲

 

 

 登場人物 

  彼(二十三歳の男)
  高校の恩師たち(映像)

 

一九六三年初秋の夜。
東京は山手線添いの街。
彼の住んでいるアパートの一室。

 

電車、タクシー、そして救急車のサイレンの音が絶え間なく聞こえる。
四畳半ほどの部屋は、暗くて誰も居ない。
カーテンの隙間から街のネオンがかすかに見える。
部屋の外に足音がすると、ドアが開いて彼が入ってくる。
天井から吊るされた蛍光灯の紐を引っ張ると、蛍光灯は、時間を掛けて部屋を照らす。
部屋は綺麗に整頓されており、乱れてはいないがどことなく殺風景で寂しい。
家具調度品は事務机と大きな本棚。
部屋の一方には押入がある。
部屋の一角に、テープレコーダー、ギターがある。
小さな屑籠には、書き損じの原稿用紙のようなものが丸められて詰め込まれてある。
彼は窓を開けると、「ふうーっ」と息を吐く。
やがて彼は、タオルを肩に引っ掛けて、部屋を出ようとする。
ふと、ドアの内側に投げ込まれた茶封筒の手紙に気付く。

 

彼:A県立Y高等学校から? 何だろう。同窓会でもあるのかな? 

 

彼は開封して、一枚の紙を取り出して読む。