北野邦生作 雪と夕日 一幕
人 物
杉本浩太・戸主・六十五歳(声のみ)
同 ふさ・妻・六十歳
同 浩一・長男・二十七歳(登場せず)
同 利男・次男・二十一歳
同 のり・長女・十九歳
川井明夫・利男の友人・二十一歳
同 咲子・明夫の妹・十八歳
同 牧江・明夫と咲子の母・五十歳
谷本さん・村の郵便局員・三十二歳
昭和三十年代。
初冬の午後。
北東北の一農家。
一坪ほどの土間に薪や米俵などが見える。
居間の中央には囲炉裏が切ってあり、自在鉤がぶら下がっている。
特に目立った家具は無いが、玄関からは部屋の正面に、仏壇兼用の戸棚と旧式のラジオが見える
利男が、囲炉裏の側に寝そべって聞いているラジオから、流行歌が流れてくる。
暫くして、隣室から「利男、利男」と呼ぶ浩太の声がする。
利男:なんだい?
浩太の声:のりと母さんはどうした? お前、仕事は済んだのか?
利男は無言。
浩太の声:仕事は済んだのかと聞いてるんだ、利男。
利男:まだだよ。
浩太の声:そこで、何してるんだ?
利男:頭が痛いんで、だから、先に帰ってきたんだ。
浩太の声:嘘言うな。じゃ、なんでラジオなどかけとるんだ。
利男:へ、分かっちゃいねえな。音楽を聴いてりゃ、頭がすーっとするのに。